「うどん・だし・吸い殻などを……捨てないでください」。農業用水路の脇に立つ、こんな注意看板の写真がXで約4万3000件の「いいね」を集めました。投稿には、ひと目で香川県だとわかる道だという趣旨の言葉が添えられていました。ゴミのポイ捨て注意なら全国どこにでもありますが、注意する対象にうどんとだしが並ぶ看板は、さすがに香川県ならではです。
この看板は、なぜ、誰が、いつから掲げているのでしょうか。調べてみると、背景には釜玉うどん発祥店として知られる老舗の25年越しの苦労と、雨の少ない香川県で用水路が担ってきた大切な役割がありました。
- 看板を設置した店と、設置に至った経緯
- 看板が「25年前のコンクリートブロック」から始まった理由
- 香川県で用水路とため池が大切にされる背景(数字つき)
- 人気店でうどんを気持ちよく味わうためのマナーとコツ
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水路にうどんを捨てないで看板が話題になった経緯
話題になったのは、旅行で香川県を訪れた人が撮影し、SNSに投稿した1枚の写真でした。写っていたのは、田んぼへ水を引く農業用水路の脇に掲げられた注意看板。ポイ捨て禁止の対象として、吸い殻と並んで「うどん」「だし」が書かれていたことが「香川らしさがにじみ出ている」と受け止められ、投稿は約4万3000件の「いいね」を集めました。
その後、まいどなニュースやよろず〜ニュース、LIMOなど複数のメディアが「県民性あふれる注意書き」として取り上げ、集英社オンラインが現地を取材。看板の主が明らかになりました。
看板を掲げているのは「山越うどん」
看板があるのは、香川県綾歌郡綾川町の山越うどんのそばを流れる用水路です。1941年(昭和16年)創業の製麺所直営の老舗で、釜玉うどんの発祥店として全国のうどん好きに知られています。取材が行われた平日だけで約700人が来店し、営業終了の間際まで行列が途切れなかったそうです。
山越うどんが看板を設置した理由と25年の歴史
店主の山越伸一さんによると、看板の歴史は意外と古く、最初に設置したのは約25年前です。当時は看板らしい看板ではなく、コンクリートブロックに注意書きをした簡素なものでした。現在の看板は約15年前に設置されたものです。
立ち食いの時代に起きていたこと
もともと、いまのような飲食スペースはありませんでした。現在の中庭のあたりは駐車場で、お客さんは用水路の前のコンクリートブロックに腰掛けたり、立ったまま食べたりしていたといいます。その流れで、食べ終わったうどんの残りやだしを、そのまま用水路に流してしまう人が少なくなかったそうです。
山越さんは「灰皿も設置しているのに、用水路にタバコをポイ捨てするついでのように」捨てていく人がいたと振り返っています。ひどい日には割り箸まで流れていたため、営業後に従業員総出で用水路の「うどん掃除」をすることもあったそうです。下流まで流れていったうどんや割り箸を拾いに行くこともあったといいます。
看板は最多で3カ所、いまは1カ所に
対策として、注意看板は最も多いときで3カ所に設置されました。その後、店が中庭に飲食用のベンチやテーブルを整え、分煙も進めたことで、用水路に捨てられるケースは次第に減っていきます。いま残っている看板は1カ所だけで、かつての苦労を伝える「生き証人」のような存在になっています。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 1941年 | 山越うどん創業(製麺所として) |
| 約25年前 | コンクリートブロックに注意書きを始める |
| 約15年前 | 現在の看板を設置(最多で3カ所) |
| その後 | 中庭に飲食スペース・分煙を整備し、捨てる人が減少 |
| 2026年 | SNSで約4万3000いいね、看板は現在1カ所 |
なぜ香川は用水路を大切にするのか 水不足と向き合ってきた歴史
「うどんを流すくらい大したことはない」と思う方もいるかもしれません。ただ、香川県で用水路が特別に大切にされているのには理由があります。
香川県の年間平均降水量は約1,100mmで、全国平均のおよそ6割にとどまります。流域の大きな河川もないため、昔から農業用水の確保に苦労してきました。その答えのひとつが、県内に1万2,187カ所(香川県の集計)あるため池です。ため池の数そのものは兵庫県・広島県に次ぐ全国3位ですが、県土の面積に対する密度では全国でもっとも高い水準にあります。
1974年(昭和49年)には、徳島県の吉野川から水を引く香川用水が通水し、水事情は大きく改善しました。それでも渇水の年には取水制限が話題になるほどで、ため池と用水路で水を分け合う仕組みは、いまも地域の農業を支えています。
うどんやだしが水路に与える影響
山越うどんのそばの用水路も、周辺の田んぼや畑へ水を届ける農業用の水路です。でんぷん質のうどんや塩分・油分を含むだしが流れ込むと、水が濁ったり、ゴミが取水口に詰まったりする原因になります。店にとっては評判の問題でもあり、地域の農家にとっては大事な水を守る問題でもあったわけです。ユーモラスに見える看板の裏には、こうした事情がありました。
釜玉うどんとは?発祥店で知っておきたい豆知識

ちなみに、山越うどんの名物「かまたま(釜玉うどん)」は、釜から上げたばかりの熱いうどんに生卵を絡め、しょうゆやだしをかけて食べるスタイルです。卵が麺の熱で半熟状になり、まろやかな口当たりになるのが特徴で、いまでは香川県内外の多くのうどん店で定番メニューになりました。
- かまたま(小):350円〜
- かまたまやま(山かけ入り・小):400円〜
- 営業時間:9:00〜13:30(麺がなくなり次第終了)
- 定休日:水曜・日曜(臨時休業あり)
- 所在地:香川県綾歌郡綾川町羽床上602-2
価格や営業日は変わることがあるため、訪問前に公式サイトで最新情報を確認しておくと安心です。
人気うどん店を気持ちよく楽しむためのマナーとコツ

香川の人気店は、製麺所直営のセルフ式や、自分で器を返却するスタイルのお店も少なくありません。今回の看板の話を、店を楽しむためのヒントとして整理すると次のようになります。
- 食べ残しやだしは返却口へ:残った分は器ごと返却口に戻すのが基本です。屋外で食べるときも、地面や水路には流しません。
- 吸い殻は決められた場所で:喫煙所・灰皿のある場所以外では吸わないのが、店にも地域にも親切です。
- 平日の早い時間を狙う:山越うどんのような人気店は昼前後に行列が長くなりがちです。開店直後の時間帯は比較的並びやすいと言われています。
- 麺切れ閉店に注意:営業時間内でも麺がなくなれば終了します。「昼過ぎに行けばいい」と油断せず、午前中の訪問がおすすめです。
- 駐車場の誘導に従う:郊外の店は車で訪れる人が多く、周辺は田畑や生活道路です。路上駐車は避けましょう。
実際に香川のうどん店を何軒か巡ってみると、店の外にベンチを置いた素朴なつくりのお店が多いことに気づきます。開放的な雰囲気が魅力である一方、周りの環境への配慮は食べる側にも委ねられている、ということかもしれません。
ご当地の麺の話題では、高知のソウルフード「まんしゅうジャン麺」の大阪・中崎町出店もまとめています。
よくある質問
Q. 「うどんを捨てないで」の看板はどこにありますか?
A. 香川県綾歌郡綾川町の山越うどんのそばを流れる農業用水路の脇です。現在は1カ所に残っています。
Q. 看板はいつから設置されているのですか?
A. 最初の注意書きは約25年前にコンクリートブロックで始まり、現在の看板は約15年前に設置されたものです。
Q. なぜうどんやだしを水路に捨てる人がいたのですか?
A. かつては飲食スペースが少なく、用水路の前で立ち食いをする人が多かったためです。食べ残しをそのまま流してしまうケースがありました。
Q. 山越うどんの釜玉うどんはいくらですか?
A. かまたま(小)が350円〜、山かけ入りのかまたまやま(小)が400円〜です。最新の価格は公式サイトで確認してください。
Q. 山越うどんの営業時間と定休日は?
A. 営業時間は9:00〜13:30で、麺がなくなり次第終了します。定休日は水曜・日曜です(臨時休業あり)。
Q. 香川県にため池はいくつありますか?
A. 香川県の集計で1万2,187カ所です。数は全国3位ですが、県土面積に対する密度では全国でもっとも高い水準です。
看板の向こうにある香川の水とうどんの物語を味わおう

一見ユーモラスな「うどんを捨てないで」の看板は、行列店が25年かけて向き合ってきた課題と、雨の少ない土地で水を大切にしてきた香川県の歴史が重なって生まれたものでした。香川でうどん巡りをするときは、この看板のことを少し思い出してみてください。食べ残しは返却口へ、早めの時間に訪問、という小さな心がけで、お店にも地域にもやさしい一杯になるはずです。
