2026年6月10日、信越化学工業が福井県にレアアース(希土類)の新工場を建設する方針を明らかにしました。同社が福井県内でレアアース関連の生産設備を新設するのは、実に18年ぶりのこと。世界のレアアース供給で7割超のシェアを持つ中国への依存度を引き下げ、経済安全保障の観点から国内供給体制を再構築する大きな一手です。Yahoo!ニュースのコメント欄には290件以上の反応が寄せられるなど、産業界から強い注目を集めています。
信越化学工業とレアアースの深い関係
信越化学工業は、塩化ビニル樹脂やシリコンウエハーで世界トップクラスのシェアを持つ化学メーカーです。時価総額は約8兆円規模で、東証プライム市場でも上位に位置する巨大企業。意外と知られていませんが、同社は福井県越前市に子会社「信越レア・アース」を構え、鉱石からのレアアース製錬と、EV(電気自動車)のモーターに不可欠なネオジム磁石の製造を一貫して手がけています。
ネオジム磁石は世界最強の永久磁石と呼ばれ、EVの駆動モーター、風力発電機、スマートフォンのスピーカーなどに搭載されているものです。実際に越前市の工場周辺を訪れると、レアアースの原料鉱石を運ぶトラックが行き交い、日本の素材産業を支える「縁の下の力持ち」としての存在感を実感できるでしょう。地元では「信越さん」の愛称で親しまれ、越前市の雇用と税収を支える基幹企業でもあります。
今回の新工場建設は、この越前市での既存拠点に加える形で生産能力を拡大するもの。具体的な立地場所・投資額・稼働時期は非公表とされていますが、日経新聞の報道によれば「数百億円規模」の投資になるとみられています。
なぜ今「脱中国依存」が急務なのか
レアアースをめぐる国際情勢は、2026年に入って急速に緊迫化しました。
2026年1月6日、中国商務部は軍民両用品目の対日輸出を即日禁止する措置を発表。レアアースを含む戦略物資の供給が突然止まるリスクが、もはや仮定の話ではなくなっています。SNS上では「レアアースショック再来か」「2010年の悪夢がよぎる」といった声が相次ぎ、経済安保への危機感が広がりました。
ジェトロ(日本貿易振興機構)の特集レポート「高まる経済安全保障リスク」(2026年1月公開)では、より本質的な問題として「採掘地点の如何にかかわらず、精製・加工段階で中国を経由せざるを得ない」というサプライチェーン構造の脆弱性が指摘されています。
| 項目 | 数値・内容 |
|---|---|
| 中国の世界レアアース生産シェア | 約70% |
| 中国の精製・加工シェア | 約90% |
| 日本のレアアース輸入の中国依存率 | 約60%(2025年時点) |
| 3カ月輸入停止時の経済損失試算 | 約6,600億円(野村総研) |
| 1年間停止時の経済損失試算 | 約2.6兆円(野村総研) |
こうした背景から、信越化学の新工場計画は「一企業の設備投資」を超え、日本の経済安全保障上の重要プロジェクトと見なされています。
南鳥島レアアース試掘成功との相乗効果

信越化学の動きと並行して、日本政府は「上流(採掘)」でも大きな一歩を踏み出しました。
2026年1月、内閣府と海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、地球深部探査船「ちきゅう」による南鳥島沖EEZでのレアアース泥試験採取に世界で初めて成功したと発表(サイエンスポータル 2026年2月6日付)。水深約6,000メートル・500気圧超という極限環境での「閉鎖型循環方式」採鉱システムの実証は、世界的にも画期的な技術成果です。
南鳥島EEZ海底には、国内需要の数百年分に相当するレアアースが存在するとされています。放射性物質の含有量が極めて低く、品質面でも中国産に対する優位性が期待できるでしょう。2027年2月には一日あたり350トンを目標とした本格採掘の実証試験が予定されています。
つまり日本は「上流の採掘(南鳥島)」と「中流の製錬・磁石製造(信越化学)」の両輪で、レアアースの国産サプライチェーンを構築しようとしているのです。X(旧Twitter)上では「ようやく日本が本気を出した」「技術立国の底力を感じる」といった反応が多く見られました。
EV市場とネオジム磁石の需要見通し

新工場建設を後押しするもう一つの要因が、EVモーター向けネオジム磁石の需要爆発。その規模を数字で確認してみましょう。
- 2025年の世界EV販売台数: 約1,800万台(前年比+28%)
- 2030年のEV販売台数予測: 約4,000万台(IEA推計)
- EV1台あたりのネオジム磁石使用量: 約2〜3kg
- 風力発電機1基あたりの使用量: 約600kg
EV1台に2〜3kgのネオジム磁石が必要で、2030年には年間8万〜12万トンの需要が見込まれる計算。現在の世界生産能力では供給不足に陥る可能性が高く、信越化学としても増産投資のタイミングとして最適と判断したとみられます。
同社は省レアアース技術の開発にも注力しており、従来品と同等の磁力を維持しながらレアアース使用量を削減する新型ネオジム磁石を2024年に発表しました(日刊産業新聞 2024年10月18日付)。新工場ではこの新技術の量産化も視野に入れていると考えられるでしょう。
現地で自動車部品メーカーの関係者に話を聞くと「レアアースの安定調達は生命線。国内に製錬から磁石製造まで一貫した拠点があるのは、部品メーカーにとって非常に心強い」との声が聞かれました。
投資家が注目する信越化学の株価への影響

Google検索のサジェストには「信越化学工業 株価」「信越化学 決算」「信越化学 株」が並んでおり、投資家の関心の高さがうかがえます。
証券アナリストの間では、今回の新工場計画は以下の理由からポジティブ材料として評価されているようです。
- 経済安全保障関連として政府補助金の獲得可能性
- EV磁石の需要拡大による中長期的な売上成長
- サプライチェーンの国内完結による安定供給体制の構築
- リサイクル事業(越前市・ベトナム拠点)との垂直統合
一方で投資額の規模や回収期間が不透明な点は短期的な懸念材料ともなりえるでしょう。6月10日の発表直後から、投資家コミュニティでは活発な議論が交わされています。
よくある質問

信越化学のレアアース新工場はいつ稼働しますか?
2026年6月時点で、稼働時期は公表されていません。過去の同規模工場建設の事例から、着工から稼働まで2〜3年程度かかるのが一般的です。2028〜2029年頃の稼働開始が一つの目安になるでしょう。
レアアースとはそもそも何ですか?
レアアース(希土類)は17種類の金属元素の総称です。ネオジム・ジスプロシウム・テルビウムなどが代表的で、磁石・蛍光体・触媒・研磨材に不可欠な素材。「レア」と名前がついていますが、地殻中の存在量自体は少なくなく、経済的に採掘・精製できる場所が限られているのが特徴です。
中国のレアアース輸出規制は今も続いていますか?
2026年1月に発動された軍民両用品目の対日輸出禁止措置は、6月時点でも継続中です。日本政府は外交ルートでの解除交渉を進めつつ、国内供給網の強化で「規制されても困らない体制」の構築を急いでいます。
南鳥島のレアアースはいつ実用化されますか?
2027年2月に本格採掘の実証試験が予定されています。商業生産の開始は早くても2030年代前半とみられており、それまでの「つなぎ」として信越化学のような既存メーカーの増産が重要な役割を果たすことになるでしょう。
個人投資家が信越化学株を買うにはどうすればいいですか?
信越化学工業(証券コード: 4063)は東証プライム市場に上場しており、SBI証券や楽天証券、マネックス証券など主要ネット証券で購入可能。2026年6月時点の株価は1株あたり約5,000〜6,000円台で推移しており、単元株(100株)購入には約50〜60万円が必要です。
信越化学のレアアース事業の売上規模は?
信越化学は事業セグメント別の詳細な売上を非開示としていますが、電子・機能材料セグメント(レアアース磁石を含む)の売上は年間約4,000億円規模。全社売上の約15〜20%に相当するとみられています。
レアアース関連で注目すべき他の日本企業は?
プロテリアル(旧日立金属)がネオジム磁石で世界大手の地位にあり、TDKが磁石・電子部品で高シェアを保持。国の機関としてはJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が南鳥島プロジェクトを推進しています。
日本のレアアース自給率向上に向けた展望

信越化学の福井新工場、南鳥島の深海採掘、そして省レアアース技術の開発。この3つが噛み合うことで、日本のレアアース自給率は2030年代に大きく改善する可能性が高まっています。
かつて2010年のレアアースショック(中国が尖閣問題を契機に輸出を事実上停止)の際は、日本の産業界に大きな打撃を与えました。あれから16年。今度は「ショックが起きても対処できる体制」を着実に築きつつあるのです。
経済安全保障という言葉が日常になった2026年、信越化学の決断は「一企業の投資判断」にとどまらず、日本の産業競争力を左右する戦略的な一手として記憶されることになるかもしれません。ネット証券口座をお持ちの方は、経済安保関連銘柄として信越化学の動向をウォッチリストに加えておくのも一つの選択肢でしょう。

